ホーランエー食堂

「粭島」と書いて「すくもじま」と読む。瀬戸内海に浮かぶ小島、粭島は店主が生まれ育った島。人口約400人。その島で食堂を開きたいと相談を受けたのが2011年。「貴船神社の隣に昔栄えた大きな民家があって今は空き家になっている。そこを借りるか買い取るかしようと思う。ただ、長い間空き家になっていて、雨漏りのあるようで、ついては工事をお願いしたい」確かそういう話だったと思う。改修可能なのか、費用はどのくらいかかるのか、予算は?店をやるとなると厨房機器も揃えなければ、それに手持ちの運転資金もある程度は必要だろう。そんなことをつらつらと考え、具体的にいろいろ話を聞きたいと後日設けた酒宴の場で店主、「買い取ることにして、今日お金を払ってきました。」

後には引けなくなり、年明けから外部の工事を開始。瓦は一部崩れて屋根には草も生えている。軒天の漆喰も剝がれ落ち、下屋からも雨漏り。設計図はない。走りながら考える。とにかく費用を抑える事。周囲の塀を解体して、その瓦を母屋の修理に使う。外壁、軒天はヒノキのフローリングB品。ただ、アルミサッシは撤去して元どおりの木製建具にしたいと作り直したが、島の雨は横から降る。急遽アルミの雨戸を外付けした。厨房、内装は自分でやるということでここで一旦手を引く。

その後、店主自らの手で内装工事と厨房工事を施工。無事開店。当面土曜日の昼間のみの営業で、手打ちそば、石窯で焼くピザがメインのメニュー。石窯は解体した石と瓦と土で店主自ら築いたもの。

2020年、島のおばちゃんたちが座りやすいように座敷を取り払い、テーブルと椅子の席を増やす工事。建物の骨格である足固めを切断することに相当のためらいがあったが、営業形態を優先して結局撤去した。土間には杉の3寸角(9㎝角)を敷き詰めて床とする。これは土間からの湿気対策、少しでも長持ちするようにと考えたこと。足固めを切ってしまったことを少しでも補えないかという、大工の身勝手な希望もある。3寸角は単価が安く、木としてのボリュームを稼ぐにはもってこいの材料だと思う。ただ、150ミリの釘を延々と手打ち。道具屋に数箱求めたところ、「こんな釘を今手で打つのは〇〇さんとこだけじゃ」 そうでしょうね。

テーブルとベンチは撤去した足固めを製材して接ぎ合わせたもの。山桜と栂。椅子は今回初めて量産したゴッホの椅子、材はヒノキ。座面編みは店主も参加。最初の工事から早9年。走りながら、軌道修正しながら少しずつ進んで行けるのはセルフビルドのいいところです。 (2012年〜)