差川の家

以前の施主さんから再びの依頼です。両親が残してくれた古家をどうするか考えたいとの相談でした。道すがらたまたま門前の家を見て、「これ、久良さんが建てた家じゃないの?」とピンときてそれがきっかけで10年ぶりに連絡をいただきました。

生まれ育った母屋はおよそ築80年、石場建て2階建の古家にしては床下の状態も良好で不同沈下も許容範囲と判断して、当初は大規模改修する予定で打ち合わせを進めたのですが、いろいろな条件がクリアできず、相談開始から1年後、結局取り壊して新築しようということになりました。同じ敷地内の蔵と納屋は残し、母屋と長屋を解体してそこに小さめの平屋を計画。設計は門前の家と同じく丹呉さん。解体した母屋から長さ8mの牛木と差鴨居を確保して新築の梁や化粧棚、縁側などに使っています。

私事、工事の開始までに何とか作業場の引越しを済ませて、新しい作業場で初の墨付け刻みとなりました。以前まで高橋製材さんに頼んでいた材の修正挽きも今回からは自分のところでやってみよう。バンドソーとローラー台を新たにセットしたので可能になったわけです。課題は、原木から挽いた荒材からいかに歩留まりを上げるか。例えば50〜80ミリの厚さの材を45ミリに仕上げると10〜44%もがかんなくずになってしまう。手間をかけて時間とエネルギーを使ってゴミを出しながら材を不要に小さくするバカらしさ。それならあえて45ミリに揃える必要はない。100本近くある6mの垂木の巾は45ミリから75ミリまで一本一本それぞれ。今回はその木ごとに最大寸法を確保して無駄な木ごしらえをやめました。その分、母屋の加工や面戸板の加工など逆に手間が増える部分もありますが、何を捨てて何を大事にするかというせめぎ合いはいつものこと。この葛藤の積み重ねが自分たちの道標となってゆきます。

見慣れてしまうと同じ寸法の材が整然と並んでいる様が逆に不自然に見えてくるのが不思議です。作業にあたって、そういった考え方や方向性は方針は3人でじっくり話し合い、あとは若い二人に任せて私はできるだけ現場に行かないように心がけました。木ごしらえから1年がかりで23年6月末に無事竣工しました。(2023年)