作業場
独立以来20数年の間、自宅から遠く離れた広島県の山奥の作業場を拠点にしてきた。義理の父に取り次いで貸していただいた700坪ほどの敷地、自宅から車で1時間弱かかる距離を差し引いても、平坦で道路沿い、周辺に民家なし。駆け出しの大工にとっては夢のような敷地だった。廃業した塗装屋さんから安く譲り受けた足場用の単管パイプで10m真四角の作業場をこしらえ、そこに一台、木工機械を置いたのが初まり。 以来、建屋の中には少しずつ機械が増え、敷地には製材した材料が置かれるようになり、空き地が減っていった。原木を買って製材所で製材してもらい、材料を自然乾燥しながら自分でストック。仕事の依頼があればその中から必要な材を引っ張り出して加工する。そんな自分なりの仕事のスタイルができあがったのは、この敷地、作業場があってのことだった。
しかし、歳をとると、まず、運転が億劫になってきた。市街地の渋滞の後、曲がりくねった山道。行ったら帰って来なきゃならない。ずっと借地というのも落ち着かない。少しずつ不動産広告に目を通すようになった。カミさんが新聞の折り込み広告で見つけた物件、742坪360万円。掲載されていた写真には雑木と草しか写っていない。後日不動産屋に連絡をとって現場確認。写真通り、足を踏み入れることすら難しい状態だったが、過去の写真や公図、登記簿などから平地と判断して購入を決めた。
若い衆2人に手伝ってもらって敷地の開墾。潅木と草と笹と、草刈機とチェンソー、ユンボを駆使して更地にするまで1年。眼下に瀬戸内海に浮かぶ漁船が見える敷地が裸になった。新たに分かったことは、平地部分は470坪、残りは使用不可ということ。今までよりかなり手狭になることが判明したが、不良在庫を整理整頓してなんとかするするという理屈をつけた。
奥行きのない横長の敷地は材木置き場、作業場には向いている。今回の敷地も、ざっと15m*100mの横長敷地。6m材をフォークリフトで不自由なく出し入れできる大きさということで、4間角(7.2m角)の建屋を四つ横に並べる平面プラン。手持ちの材料で材料代を抑える。12㎝角のヒノキの4m材で4間のトラスを組んだ。初めてのことで、木造トラスの資料を探すがあまり無い。黒田重義「大工力」、「木造トラス勉強会」資料の二冊が主な参考書となった。
折しも世はコロナが流行、仕事自粛にかこつけて建設を進めた。仕事の合間を縫っておよそ1年かけて竣工。両サイドに4間角の二階屋、真ん中に4間*10間の平屋。一部下屋付。普段とは違う柱壁のない大空間を作るにあたってはずいぶんと頭を悩ませた。接合部の加工、ダブル筋交い、ホールダウン金物、面剛性。走りながら考え、試行錯誤しながら進めた部分も多い。建った後から弱点や改良すべき点も見つかる。しかし、普段の仕事ではできないトライアンドエラーを経験できる場ができたことは、今後のプラスになるだろう。 (2022年)