久賀の古家
「私は周防大島の久賀の出身で、久賀に古い家(昔の農家でおそらく築110年ぐらい)があります。今は誰も住んでいなくて時々雨漏りがするような家ですが、私にとっては愛着がありましてこれを改修したいと思っております。(以下略)」と相談がありました。依頼者は日曜大工が趣味ということなので、私たちは構造と屋根周りの改修だけを引き受けました。床、壁、天井などの造作工事はご本人が時間をかけてコツコツと。初めてのケースなので、素人ひとりで本当に大丈夫なんだろうか?と不安もありましたが、その懸念は4年後、見事に払拭されました。 家のジャッキアップ、柱の根継ぎ、屋根下地からの瓦葺き替え、新たな下屋の設置までを終えてご本人にバトンタッチ。半月はお住いの鳥取県、残りの半月を現地の離れに泊まり込みながら大工工事。それを数年間続けられて9割方完成。薪ストーブもご自分で据えられて、なかなか快適な住まいになっていました。素人さんによる独力で膨大な時間と労力をかけた成果を目の前にすると、「住めるようにする」という本質の前に、細かい収まりなんでどうでもよくなって吹き飛んでしまいます。限られた予算、限られた道具、限られた技術の範囲内で自分のできることをする。それは毎日限りない取捨選択の連続であったろうと思います。あきらめるところと譲れないところを日々自問自答しながらそれを形にしてゆく。そこで作られるものはご本人自身の投影であり、つまらぬ傍観者的な批判など寄せ付けない潔さがセルフビルドの良さなんだろう、と職業大工は思うのでした。(2014年〜)