門前の家

(設計:丹呉明恭建築設計事務所

明治初期に建てられた古家の改装を計画したものの、構造の痛みが激しく断念、取り壊し、そして新築となった家です。
設計は、私が東京で大工見習いをしていた頃からずっと大工塾でお世話になっている丹呉さんにお願いしました。丹呉さんとの仕事は独立して間なしの2003年に建てた「東広島の家」以来。その間、大工塾などで交流は続いていたので久しぶりという感覚はなかったのですが、前回はただただ図面通りに作ることに精一杯だった自分を思い出しました。互いに15年の時を重ね、今回は大工からの要求や提案なども取り入れてもらいました。約52坪の平屋、地元の杉を使った渡り顎の家です。下梁に上梁を乗せて深い軒(約1.5m)を作り、厚貫と土壁で耐力壁を構成するのは渡り顎の家のオーソドックスな形。地元産の杉をできるだけ多く使いたいとの思いから、足場板を1000枚購入して加工、選別して床下地と化粧床板と化粧野地板に振り分けて使っています。床下と屋根に使う断熱材はウッドファイバー、屋根のルーフィングもコロシート、キッチンも杉で作成、合板や石膏ボードはもちろんなし、新建材なしの家。「木でできることは木でやる」ということを前提にすると、設計やデザインもある程度限定されてきますが、「木に従う」という制約の中で、今までの経験の中から解決策を見つけ、それをひとつひとつ形にしてゆくことが木を扱う者としての真摯な態度であるのだろうと思います。(2019年)